IT化と働き方改革の深い関係とは?IT活用から始める日本の新しい働き方

ビジネス

2019年4月、働き方改革関連法が施行されました。内容的には残業時間の上限設定、有給休暇の確実な取得などが盛り込まれており、違反すれば罰則が生じるものもあります。働き方改革は日本が抱える労働問題の解決を目指すものですが、経営者の視点から見れば、法令順守の必要性からも業務効率化を目指し、残業時間削減などに取り組む必要が出てきました。

働き方改革によって、現場がより混乱するという懸念もあります。業務を効率化し、長時間労働を是正するにはどうすれば良いのでしょうか。

働き方改革が施行される背景とは?

働き方改革のそもそもの主眼は「処遇の改善」「制約の克服」「キャリアの構築」です。この3つのテーマを確実に遂行するため、「非正規雇用の処遇改善」「賃金引き上げと労働生産性向上」「長時間労働の是正」など9つの項目に細分化されています。

少子高齢化により労働人口の減少は始まっている中で、いかにして日本の労働生産性を上げていくかが問われています。働き方改革が施行される背景にあるのは、このような状況なのです。

少子高齢化による人手不足

少子高齢化による人手不足
出典:中小企業庁
上図は、中小企業庁資料から引用した「将来人口の推計」の図表です。同資料は、進みゆく少子高齢化について「とりわけ我が国経済に大きなインパクトをもたらす変化」であると述べています。

特筆すべきは、この図から読み取れる「生産年齢人口の減少」と「65歳以上の人口割合の増加」です。生産年齢人口とは、15歳から64歳までの、労働に従事するとされる年齢の人口です。既に減少傾向を見せている生産年齢人口は、今後も大幅に減少していくと見込まれています。

労働生産性向上と国際競争力回復

労働生産性向上と国際競争力回復
出典:日本経済新聞
上図は、日本経済新聞から引用した先進7カ国(G7)の労働生産性の国際比較の図表です。日本生産性本部が公表した「労働生産性の国際比較 2018」を基に作図されました。日本の労働生産性は、米国と比較すると7割弱の水準でしかありません。

1時間あたりの労働生産性は47.5ドルで、この数値は2016年と比較すると1.4%上昇してはいますが、G7のなかで引き続き最下位となりました。労働生産性の向上には、時を同じくして起こった第4次産業革命によるイノベーションの導入が鍵となると見込まれています。

IoTをはじめとした第4次産業革命

平成29年3月28日に総務省が発表した「働き方改革実行計画」で、IT、ICT(ITのことで、海外ではICTが一般的)という用語を検索するとそれぞれ12~14か所も見つかります。具体的には、長時間労働の是正、テレワークの導入、リカレント(学び直し)教育にITスキルを加えるなどの内容が見つかります。

今日では、IoT化は業務工程に対してのみならず、製品・サービスの内容にまで求められるようになりました。しかし、IoT化が働き方改革に必要と分かっていても、現場では使いこなせないという不安があるようです。

IT化と働き方改革が切っても切れない理由とは?

IT化と働き方改革が切っても切れない理由とは?
上述した通り、4月1日、働き方改革関連法が施行されました。(中小企業に対する施行は、2020~21年から)新しく設けられた制限をいかにして遵守するかで、困惑している現場もあります。

残業時間の上限規制

今回の改正では、これまでの「月45時間、年360時間まで」という上限に違反した企業には、懲役・罰金が科されることになりました。

年次有給休暇の確実な取得

雇い主は、10日以上の有給が付与される全ての労働者に、毎年5日有給を与える必要があります。

正規・非正規雇用労働者間待遇差の禁止

正規雇用労働者と非正規雇用労働者(パート、契約労働者、派遣)間の、基本給や賞与などの待遇差が禁止されます。

テレワークの可能性

厚生労働省のテレワークの導入・運用ガイドブックは、テレワークについて『ICT(情報通信技術)を活用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方』と説明します。
そして、下記のようにテレワークの可能性への期待をまとめています。

さまざまな場所での柔軟な働き方は、
「従業員の育児や介護による離職を防ぐことができる」
「遠隔地の優秀な人材を雇用することができる」
「災害時に事業が継続できる」など、多くのメリットをもたらします。
テレワークの導入・運用ガイドブック

このようにテレワークは、育児・介護等をおこなう社員に対する福利厚生を超えて、働き方改革の施策の1つとして期待されています。

BIツールなくして残業は減らせない

BI(ビジネス・インテリジェンス)ツールとは、企業に蓄積された膨大なデータを収集・分析し、意思決定のスピード化を支援してくれるツールです。売上などのシミュレーションにも活用可能で、近年導入する企業が増えています。

営業は営業支援システム(SFA)、コールセンターは顧客管理システム(CRM)、リスト作成はエクセルと、データ管理が分散されている会社は多いのですが、BIツールはこれらを統合し、分析・可視化してくれるため業務が効率化します。

ダイバーシティの実現

前述の「テレワークの導入・運用ガイドブック」には、テレワークの可能性についてまだまだ言及しています。「従業員の育児や介護による離職を防ぐことができる」ことの他に、「遠隔地の優秀な人材を雇用することができる」「災害時に事業が継続できる」などのメリットも挙げています。

このようにテレワークは、働き方のダイバーシティ(多様性)を促進し、政府が謳う「一億総活躍社会」の実現のカギとして期待されています。

IT化による働き方改革事例

IT化による働き方改革事例
これまで、人手不足を乗り越え生産性向上を図るための対策を紹介してまいりました。以下に紹介するのは、そのような課題をITの導入で克服した成功事例です。1つめは区役所ですが、紙ベースの書類の多さや意思決定の遅さを連想させる、イノベーションの印象を抱きにくい職場です。また、電気工事や染物業など、職人ありきのビジネスでもIT導入の成功事例がありますので紹介します。

リモートワーク、ペーパーレスなどを実現:豊島区役所

豊島区役所は、移転を機にICTを活用した働き方改革に着手しました。具体的には、庁内無線LAN整備、タブレット配布、IP電話設置などです。無線LANは庁内どこででも仕事可能な環境を提供し、タブレットは、出張先での文書の電子決裁や区議会出席中の資料検索を可能にし、IP電話は一度により多くの電話対応やウェブ会議を可能にしました。

ファイリング・システムの導入では、ペーパーレス化・省スペース化を実現。今後は帰宅困難者の動画共有など、庁外での活用も考えています。

スキルや仕事量の見える化で属人化を解消:宗盛電気サービス株式会社

宗盛電気サービスは、「技術者の確保と定着」をテーマに研修費用の全額負担などの改革に着手しました。またグループウェアで「社内コミュニケーションのIT化」を図り、技術者に起こりやすい属人化を解消しました。

具体的には、社員の保有資格のリスト化・スケジュールの見える化や、掲示板での問い合わせ、事故情報などの社内共有をおこなったのです。これにより「仕事の偏り」がすぐに分かり、社員に平等に仕事を配分できるようになりました。

システム導入は社風を改善、売り上げも過去最高に:株式会社京屋染物店

創業100周年を迎える株式会社京屋染物店は、自称衰退産業のアナログ企業でした。非効率的な体制のせいで、社長が受注するほど残業が発生し社員の不満が募る社風でしたが、「業務システムを自作できるクラウドサービス」導入後、多くの問題が解決しました。まず、各部署の「忙しさ度合い」の見える化は「助け合い」「他の部署を助ける」という風土を生み、社長を驚かせました。

また、売上や固定費、お客様の声など「結果」を全社員にシステムで共有したところ、社員のモチベーションが向上。今ではほぼ全社員が定時に終業し、改革着手後の繁忙期の売上は、1.5倍と過去最高を記録しました。

まとめ

最後に紹介した3つの事例は、IT化が働き方改革に切っても切れないことを示す好事例だったのではないでしょうか。ありがちな課題がIT化によって解決されることに気付かされます。例えば、属人化しやすい技術職のスキルは、可視化・リスト化できます。

また情報共有すると、技術職が目の前の仕事だけでなく、受注から生産工程、顧客からのフィードバックにまで目を通せるため、モチベーションが向上するメリットがあります。効率化だけでなく、社員のモチベーション向上にも寄与している点に注目です。