日本の労働生産性を低下させる原因と生産性が低い会社の共通点とは?

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日本生産性本部は、1981年より「労働生産性の国際比較」を調査し発表しています。OECDや世界銀行などのデータに基づいて作成されるこの資料は、日本の労働生産性の低さを裏付ける資料として毎年各方面から注視されています。
日本の労働生産性は決して高くないだけでなくG7の中では最下位であるという事実は、衝撃をもって報道されています。また、高い労働生産性を誇る国々にはない働き方の慣習が、日本の会社には蔓延しているといわれます。それらを生産性が低い会社の特徴と併せて、まとめてみました。

日本の労働生産性は低いのか

日本の労働生産性は低いのか

出典:日本生産性本部

上図は、同資料から引用した「先進36カ国で構成されるOECD加盟諸国の2017年の国民1人当たりGDP」の比較です。
GDP(国民総生産)は「経済的な豊かさ」を国際的に比較するにあたり一般的に用いられますので、労働生産性の比較に先立ち引用しました。日本の国民1人当たりGDPは43,301ドル(431万円)で、36カ国中17位です。同資料によると日本の国民1人当たりGDPは、2000年代に7カ国中で下位になりましたが、2011年以降最下位を脱し、緩やかな上昇基調にあるとのことです。

時間当たり労働生産性は47.5ドル(20/36位)

2017年の日本の時間当たり労働生産性(就業1時間当たり付加価値)は、47.5ドルでOECD加盟36カ国中20位でした。労働生産性とは、より少ない労働力で多くの経済的な成果を生み出せるかを、定量的に数値化した指標の1つです。「経済的豊かさ」の実現の指標ともいえます。同資料は、日本が就業者数の増加・就業率の改善を期待できなくなったと述べ、それを労働生産性の向上でカバーできれば国民1人当たりのGDPは上昇すると結論付けています。

1人当たり労働生産性は84,027ドル(21/36位)

2017年の日本の1人当たり労働生産性(就業者1人当たり付加価値)は、84,027ドルでOECD加盟36カ国中21位でした。また、日本の就業1時間当たり労働生産性は、47.5ドルでOECD加盟36カ国中20位でした。1位のアイルランド、2位のルクセンブルクは効率的に付加価値を生み出している他、企業を呼び込む税制などもあるため主要国の中でもやや突出しています。3位は油田や天然ガスなどの資源を持つノルウェーで、こうした国々は短い労働時間でより多くの成果を生み出し経済的に豊かな生活を実現しているといえます。

製造業の労働生産性は 99,215 ドル(15/31位)

日本の製造業の労働生産性水準(就業者1人当たり付加価値)は、99,215ドルで 31カ国中15位で昨年から順位を1つ落としました。産業別労働生産性の比較は難しいのですが、製造業の(名目)労働生産性における最高位は、アイルランドです。アイルランドは1990年代後半から法人税率を低く設定し、グローバル企業の欧州本部や本社の誘致に成功したのみならず、製造業でも高い労働生産性を誇っています。

日本企業の労働生産性が低い原因とは?

日本企業の労働生産性が低い原因とは?

日本企業には、依然として労働生産性の向上を妨げる悪しき慣習が残っているといわれます。例えば、長時間労働が美徳とされる風潮や、責任を回避したいがため決定を先延ばしにするといった傾向が、それにあたります。先ほど労働生産性の国際比較と併せて、労働生産性が高い国々の成功要因を列挙しました。その中にはグローバル企業の誘致が含まれていましたが、外国人労働者から見た日本企業の働き方には、疑問を感じる点が多々あるようです。

ムダが多い働き方

日本の企業は外国人労働者から見ると、本来企業が目的とする「利益の創造」のためというよりも、「ルールに即すこと」を目的にしているように見えるといいます。これも日本企業の悪しき慣習であり、このままでは会社組織のミッションを見失い社員のモチベーションを下げてしまうでしょう。多すぎる会議や書類処理などもそのような慣習の一つといえるでしょう。日本の企業は、もっと生産性のあることに時間と労力を使うべきだといえます。

成果よりプロセス重視の風土

日本の人事制度は、成果よりもプロセスを重視する傾向があるという指摘があります。この傾向は外国企業から見ると、人事評価が適正におこなわれていないと評価されます。「経営プロ」のコラムに、まさにこの風土を指摘した箇所があるので引用します。

しかし欧米企業では、「顧客訪問回数」や「関係構築」のような目標は、「それはただの行動だ」、「結果にコミットしてない」として問題になることが多い。なぜ日本ではこうなるかというと、日本企業では「プロセス」が重要視されるからである。
経営プロ

決断力の低さ

決断力の弱さも日本企業の弱点です。日本企業は決断までの時間が非常に長く、ペンディングが常態化する傾向があります。このような働き方をしていたら、働き方改革関連法案で長時間労働の是正をいくら呼びかけても、改善は難しいのではないでしょうか。一方、外資では意思決定力の欠如した人は絶対に出世できないといいます。外資系企業のように「責任を取る」「決断を下す」人を評価する風土が、日本でも生まれなければいけないでしょう。

労働生産性が低い会社の共通点とは?

労働生産性が低い会社の共通点とは?

既に述べましたが、労働生産性とは「より少ない労働力で多くの経済的な成果を生み出せるかを、定量的に数値化した指標の1つ」です。つまり、より少ない労働者・労働時間で付加価値の高いサービスを提供できる会社は、労働生産性が高いことになります。
長時間労働が続く会社の労働生産性は、結果として低く算出されてしまいます。その他にも、労働生産性が低い会社には共通点がありますので、見ていきましょう。

単価が低く粗利が取れない

商品の単価が低いと「薄利多売」しなければ元が取れないことになります。価格競争に巻き込まれることでこのような悪循環に陥り、どんどん利益が出なくなっていくのです。価格競争が起こる背景には、同じような商品が市場に出回る「商品のコモディティ化」や「供給過多」があるといわれます。企業はこの負のスパイラルを脱し、高付加価値な自社商品・サービスの開発にこそ努力をすべきだといえます。

仕事の属人化

中小企業の製造業では、特にこの「仕事の属人化」が会社の成長や危機回避能力の向上を妨げているといわれます。特殊な技能を持つ「巧」など、会社にスペシャリストがいること自体は付加価値が高いのですが、その人がいなくなったら会社の経済活動が止まってしまうのが問題です。将来的な会社の拡大にも限界が生じます。技術・ノウハウは会社の財産として共有し、教育で拡大していける体制をつくらなければなりません。

長時間労働の常態化

長時間労働の常態化は、明らかに日本企業の労働生産性を下げています。それどころか残業を美徳とする雰囲気もまだなくなったとは言えない状況です。2019年4月に施行された「時間外労働の上限の設定」を遵守し、今後は効率的な働き方が評価される社風へと変化を遂げなくてはいけません。長時間労働は、社員のパフォーマンスを確実に下げます。社員が定時に帰宅でき次の日のために十分に休息がとれる会社の方が、労働生産性は高いのです。

まとめ

労働生産性が低い会社の特徴を列挙してきましたが、これを半面教師にして、今後の会社が目指すべき姿に向かっていきましょう。
いま、高度経済成長の時代に誕生した会社も世代交代の時期を迎えているといわれます。これまでは仕事が人についていても問題はありませんでしたが、世代交代や会社の規模拡大にあたっては「仕事の平準化」がおこなわれていないと大きな困難に直面します。会社として効率的な働き方を模索するかどうかが、深刻な人手不足の時代にあって、生き残れる鍵となってくるでしょう。