中小企業の命題「人手不足」「生産性向上」とどう向き合うか?IT導入が解決の糸口に

ビジネス

深刻な人手不足に突入している日本ですが、中小企業においてはどのくらい深刻なのでしょうか。大企業と比べて大きな状況の違いはあるのでしょうか。人手不足に関しては、企業規模が小さいほど従業員一人の労働が大きな意味を持ちますし、人手不足の状態では生産性向上もなかなか実現しづらいでしょう。

この記事では、中小企業が人手不足と生産性向上にどう向き合うべきなのかを、成功事例も紹介しながらまとめていきます。

人手不足に向き合うには

人手不足に向き合うには
出典:一般財団法人 商工総合研究所
上図は「中小企業の企業規模別欠員率」をあらわしたもので、厚生労働省「雇用動向調査」を基に一般財団法人 商工総合研究所が図表化したものです。「欠員率」とは、企業の人手不足の程度を量的に示す代表的な指標で、欠員率は欠員数÷雇用者数で求めます。上図から、全ての規模において欠員率が 2009 年を起点に上昇していることが分かります。

同調査によると、中小企業の人手不足の方が大企業のものよりも深刻だとのことです。

業務プロセス改善による省力化

人手不足の対策としてITツールの導入はとても有効ですが、ただシステムを入れただけで全ての課題が解決されるわけではありません。最適なシステムを導入するためには、業務プロセスの見直しも併せておこなうことが大前提です。

業務プロセスの見直しは生産性向上に不可欠ですが、その理由は、業務の見える化をおこなうとボトルネックが浮き彫りになるからです。業務プロセスの見直しに併せて、適切なマニュアルがない場合はこの機会に作成しましょう。

女性・外国人・シニアの雇用推進

人手不足の深刻化はもう始まっています。政府は「一億総活躍社会」をスローガンに掲げ、女性・シニア・外国人の登用を推進する方針を示しました。15~64歳を指す生産年齢人口の減少や少子高齢化による人手不足を克服するため、女性・シニアなどを労働力として「掘り起こす」必要も示唆しました。

そのために、育児や介護で大事な人材が退職をやむなくされる状況を改善するため、時短勤務や無料託児所の設置、リカレント教育(学び直し)の導入などもされています。

能力開発、従業員の多工化・兼任化

従業員の多能工化・兼任化の取り組みも進展しています。この施策は、特に製造業において積極的に採用されていますが、卸売業・小売業やサービス業などにおいても積極的に取り組まれるべきでしょう。多工化・兼任化は生産性向上にも寄与するため、具体的には「能力開発機会の提供」「ジョブローテーション制度の実施」「スキルマップ作成」「多能工化・兼任化に応じた昇給・人事評価」と並行しておこなわれています。

生産性向上に向き合うには

生産性向上に向き合うには
生産性向上は全ての企業の永遠の課題ですが、働き方改革によって、もはや国を挙げての命題となりました。先進主要国(G7)で最下位という日本の労働生産性の低さは、今後ますます人手不足が加速する日本が乗り越えなければいけない課題です。

経済産業省の「2018年版中小企業白書・小規模企業白書」は、中小企業が生産性向上を実現するために克服すべき課題をまとめています。働き方改革も、日本における労働問題を克服した先には、生産性向上がなされるという観点で策定されています。

大企業との生産性の格差是正

大企業との生産性の格差是正
出典:経済産業省
上図は、各業界における大企業と中小企業の「企業規模別の時間当たり労働生産性の水準」を図表化したものです。同資料は、「中小企業の景況感は改善傾向にある」という一方で、生産性において大企業と中小企業の間で格差が拡大している点を指摘し、格差を可視化しました。格差が最も大きいのは「製造業」で、僅差で「学術研究,専門・技術サービス業」が続きます。

3番目が「情報通信業」で、これらの業種においては大企業と中小企業の間で、生産性における大きな差異が生じています。

業務プロセスの見直しは必須

人手不足対策でも、業務プロセスの見直しによる省力化はとても有効です。生産性向上の実現にも業務プロセス見直しは大前提ですが、どのように進めれば良いのでしょうか。業務プロセス改善は、下記のようなフローで進めていきます。

  1. 現状分析
  2. 改善策を立てる
  3. 改善策を実行
  4. 改善策の評価・再見直し

まずは現行のフローを可視化します。そして、ボトルネックの洗い出しをおこない、改善目標を設定します。その後、改善策を実際にテストし、評価します。改善すべき点があれば見直しをおこないます。

IT投資に関する相談相手がいるかが大きく影響

「2018年版中小企業白書・小規模企業白書」は、中小企業がITを導入する際のきっかけとして重要になるのは、地元のITベンダーなど「身近な相談相手」がいるかであると指摘しました。

中小企業を対象に、社外におけるITに関する相談相手を調査した結果「地元のITメーカー・販売会社」「公認会計士・税理士」「地元以外のITメーカー・販売会社」の順で回答が多く集まりました。IT導入の課題に対する回答には、コスト以外では「使いこなせない」という回答が多く、相談相手の有無が導入を左右している状況がうかがえます。

IT導入などの対策事例

IT導入などの対策事例
前述のように「2018年版中小企業白書・小規模企業白書」は、生産性向上を目指してIT導入に踏み切った事例の中から「身近な相談できる相手に相談した」ことが功を奏した事例を紹介しています。具体的には、実際に商工会議所・中小企業診断士などに相談して生産性向上に成功した事例などです。

いずれの企業も、IT導入に対する補助金についてのアドバイスを受け、申請後に受給しています。以下の成功事例は、相談する相手、的確な業務プロセス改善、補助金を受けてのIT導入と、いづれも成功する要因を満たしています。

商工会議所にIT導入を相談:株式会社宝角合金製作所

株式会社宝角合金製作所の事例は、商工会議所に相談して生産工程の「見える化」を実行し、生産性向上を実現したものです。同社の課題は納期遅れや人手不足の常態化で、これを姫路商工会議所に相談すると「ものづくりIT化推進補助金」活用の提案を受けました。同社は補助金を活用し工場内のWi-Fi化、生産管理システムとタブレット端末の連携を実現しました。その結果、現場全体で1日9時間程度のタイムロス削減に成功しました。

稼働状況を収集・分析するITシステムを構築:有限会社朋友

有限会社朋友は、業務の徹底的な見える化をおこなったうえでIT導入を進めたことが、生産性を向上させました。同社は中小企業診断士と二人三脚で、まず徹底した業務の見える化をおこなったところ、金型の交換作業等が稼働率を低下させるボトルネックだと判明しました。設備にセンサーを設置し、稼働状況をクラウドを通じ収集・分析するITシステムを構築し、社長のリーダーシップのもとPDCAを回していくと、稼働率は約20%向上し、利益率は3.9倍に上昇しました。

ロボット導入により人手不足に対応:株式会社コイワイ

株式会社コイワイの工場は、 ロボットの導入などで人手不足に対応しつつ生産性を高めました。工場内の金属鋳造が危険な重労働であることと、震災の影響で工場は求人難に陥りました。 同社は、特に危険な工程にロボットを導入した際、女性が使用するケースを想定して電動式ハンドリフトを導入しました。ロボット導入で生産性は2.3倍に上昇、不良率は10%に低減しました。パートと派遣の過半数を女性が占めるまでに増加し、女性雇用にも成功した事例です。

まとめ

成功事例を見て感じられたと思いますが、人手不足の解消も生産性向上も、何がボトルネックになっているのかを把握しない限り、進展がないことが分かります。また、専門家や有識者にアドバイスを乞わなければ、IT導入をサポートする補助金の存在も知り得なかったのではないでしょうか。

株式会社コイワイの例は、危険な工程を含む業種が女性労働者を想定した設備投資をおこなった結果、従業員の女性比率を増加させたという興味深いケースです。事例から、あなたの会社の課題に対する改善策のヒントが得られれば幸いです。