製造業の現場にIoT導入が叫ばれる理由とその未来像
製造業の方なら関心のあるキーワード「IoT」。関心はあるけれど実際に自社へ導入するとなると「何に使えば良いのか」あまりにも漠然としてしまい、そこから先が思い描けない方も多いのではないかと思います。
今回はこれからの製造業が無視することができない「IoT」を導入する理由と未来像について紹介させていただきます。
製造業のIoT導入が叫ばれる理由
IoTと言われても、どのようなメリットがあるのか、理由が明確にわからないと検討することもできません。そこで3つのわかりやすい理由をご紹介していきます。きっとあなたの会社にも役立つでしょう。
生産性の向上
製造業がもっとも効率化し実現したい部分「生産性の向上」。考えやすい反面、何を目標にして改善し向上させたいのかを決めておかないと、時間だけ使って何の効果も感じられないことがあります。
そこで代表的なテーマとして取り上げるのが「人や設備のムダを減らす」ということです。
各工程での人の動きにムダがないか。作業時間に大きなバラつきはないか。設備が思っていたように稼働しているか。こういったことを削減する取り組みが始めるポイントとしてわかりやすいでしょう。
そしてこういったテーマこそ、IoTを導入することで工場の情報がデジタル化され、リアルタイムに収集できるようになり、これまでのように人間の勘ではなく、数字という事実から改善策を見つけることができます。
これはIoTが生産性向上につながる理由の一つです。
新しい価値の創造
工場にIoTが導入されると、先ほども出てきましたがリアルタイムに情報を得ることができます。また、得意先からの受注状況から必要となる工程を自動的に洗い出し、リアルタイムに工場へフィードバックすることもできるでしょう。
小ロットは対応が大変だとあきらめておられる工場でも、IoTを導入することでこれまでの工程を利用して試作品や小ロットものに対応する方法が見つかる可能性があります。
工場に新しい価値を生み出すことこそ、IoTを導入する理由だと言えるでしょう。
技術の継承
人手不足が大きな課題になっている製造業。同時に、職人の技を継承する人材も不足しているため、これから先はどうすれば良いのかと頭を抱えておられる方もいらっしゃることでしょう。
このような課題こそ、IoTを導入することで解決する糸口が見つかります。巧みの技を、これまでと同じように「見る、聞く」だけで伝えることは簡単ではありません。
そこで巧みの技をテジタル化することでデータとして継承し、ロボットに代用してもらうという流れがあります。これは人材不足も解消し、技術の継承も行われるため、製造業にとっては大変うれしいことではないでしょうか。
IoTの導入を検討するポイント
IoTの導入を検討するとき、次の5つのポイントを押さえておくと失敗する可能性が低くなります。
それでは5つのポイントを見ていきましょう。
IoTで何が出来るのか
IoTを導入することで、どのようなことが出来るのか。IoTを導入することで、どのようなメリットが手に入るのか。自社に即した具体的な内容を関係者全員と共有することから始めましょう。
「言わなくてもわかっているだろう」と話を進めると、それぞれが自分勝手な想像をしてしまい、いつまで会議を続けても話がまとまらないということもあります。
まずは関係者の「共通言語」を整備することから始めましょう。
現行業務の課題を洗い出す
現行業務の課題を洗い出します。これは要件をあぶり出し整理する段階です。面倒な作業や困っている作業。間違えやすい工程や予測が難しい工程。
出来るならやりたくない手続きや、現場では別のやり方の方が都合が良いというような意見まで、現場の声を聞き出すことが大切です。
同時に、部門間での確執やコミュニケーションが不足していることも課題として洗い出すことで、IoT導入によって社内の関係性を向上させるきっかけになる可能性もあります。
IoTの導入で変わるイメージ
洗い出した課題に対してIoTを導入すると、どのように変化するのかをイメージします。
そして変化すると思われる課題に対して、どの順番に着手するのかを決め、まずは小さく、自社内の人的・時間的・費用的に可能なリソースで次の段階へ進みます。
いきなり大きなことを始めようとしてはいけません。構想は大きくても構いませんが、着手する部分は小さい部分からはじめ、少しずつ実績を出しながら大きな範囲までIoTの導入を検討しましょう。
いくらIoTの導入がプラスになるとは言え、人は新しい事に懐疑的です。いきなり大きな部分に着手すると、反感を生み出すことにもなりかねません。
どのようなデータが欲しいのか
IoTの導入が決まった部分に必要なデータは何かを検討します。
どの設備のデータが、どれくらいのタイミングで欲しいのか。どういった方法でデータを取得できるのか。どこにデータを保持するのか。そして蓄積したデータをどのような方法で活用するのか。
こういった事を整理していきます。いくらデータが蓄積されていたとしても、活用する方法が素人では使えないものなら意味がなくなります。蓄積したデータを現場へどのように見せることができるのか考えておかないと、現場からは無駄なことをしていると言われるでしょう。
この段階は地味な部分ですが、今後の導入を左右する部分です。
関係者が共有する
小さくIoTを導入しテストを行います。出来るだけ現場の負担が少ないようにするのがポイントです。現場としては作業が増えることを良しとしませんので、小さな手間でテストする方法を検討しましょう。
テストの結果を定期的に集め検証し、検証結果から改善点を洗い出します。改善点を調整し、また小さくテストを行います。ビジネスで耳にすることの多い「PDCA」を繰り返すことで現場に喜ばれるIoTが実現します。
そして、ここが肝心なところです。テストの方法や結果、改善点などは関係者の間で共有することが大切です。誰かだけ知らないとか、誰かだけが知っているという状態になると、工場全体にIoTを導入しようとするとき反発が生まれる可能性があります。
IoTによる製造現場の未来像
今後、製造現場にIoTが導入された場合、実現されるであろう未来像を見ておきましょう。
品質検査の自動化
製造現場で必須な工程である「品質検査」。多くの工程で人による品質検査が行われていますが、品質保証の問題が浮上した昨今、品質に関する情報を共有し、人ではなく自動化することが望まれています。
少し前なら品質検査の自動化は難しいことでしたが、AIやロボット、ビッグデータなどの急速な発展によって実現可能な状態に近づいています。
まずは大手製造業からの導入となるでしょう。しかし品質検査の自動化が始まると、品質データの共有が大手との間で必須となり、中小の製造業も導入せざるを得ない状態になる可能性があります。
AIの利用拡大
変化の大きい製造現場。人の力だけでは最適化することが困難です。しかし膨大なデータとスピーディーな判断を得意とするAIを利用することで、これまで人では導けなかった最適化手法を導き出せる可能性があります。
他にも、多くのデータから生産予測することも可能になるはずですから、生産管理の現場にも間違いなく入り込んでくることでしょう。
製造業におけるAIは特別なものではなく、利用するシーンが増え続けるものになるはずです。
エッジコンピューティングの利用
製造現場における重要なことの一つはリアルタイム性です。これは扱うデータにも言えることで、現場にある機器で処理をして使いたいというニーズは常に存在しています。
ここで大切なことは、現場に近い機器から取得したデータは、意味のあるデータになっている必要があるということ。無意味なデータばかりを取り入れても有効に活用できません。
そこで現場に近い機器(エッジ)から得たデータを意味のある綺麗な状態で取得するために「エッジコンピューティング」を活用する動きが出てきています。
アマゾンやマイクロソフトも興味を示している領域ですから、今後は大きな流れのひとつとなるでしょう。
柔軟な生産ライン
受注から生産までIoTによってつながることで、その日の状況によって生産ラインを柔軟に最適化することも可能になるでしょう。
物理的に柔軟なラインに変更する仕組みや、工程間を無人で搬送する車なども検討されています。
セキュリティ対策の強化
IoTが進むことの懸念点として出てくるのがセキュリティ問題です。IoTでつながることは大変意味のあることですが、反対に1台のパソコンからウィルスが浸入すると、工場全体に影響が出てしまいます。
今後IoTの導入が進むにしたがって、セキュリティ対策の強化も同時に重要なポイントとなるでしょう。
攻めのIoTには、守りのセキュリティが対で必要になると覚えておきましょう。
すべてがつながる
IoTの究極の状態は、製造現場がすべてつながることです。営業から受注、材料の発注手配から製造工程、品質検査から納品搬送まで。
すべての状況をデータで見える化し、それぞれの工程の改善点が数字という事実で検証できることが究極の未来像です。
また、このようにデジタル化できると、AIやロボットなどの導入が促進し、人材不足の解消にも役立つことが期待されています。
まとめ
IoTを導入する理由と未来像を紹介していきました。まだまだ先の話のようにも感じますが、デジタル分野はある日突然大きな変化を突きつけてきます。
これは1995年にWindows95が登場し、それまでインターネットやパソコンに興味がなかった(知らなかった)人達へ、デジタル環境を使うように迫ってきたことに似ています。
今すぐIoTを導入することは考えておられなくても、今回の「IoTの導入を検討するポイント」を参考に、自社内でどのようなことが出来るのかを検討されると良いでしょう。