製造現場に働き方改革は必要か?導入方法とITを活用した成功事例

ビジネス

働き方改革が叫ばれているのは、製造業においても同じです。「日常的な業務だけでも手いっぱいだ」と叫びたくなる状況は、どの製造現場でも同じでしょう。しかし、政府が働き方改革を推進せんと訴える背景には、将来の深刻な労働力人口不足や、そのため急がれる生産性の向上などの課題があるのです。
特に、製造業においては世代交代の時期を迎えています。次世代に続くイノベーションとは、どのようなものでしょうか。

製造現場に働き方改革が必要な理由

中小企業庁による「中小企業白書」2018年版には、2009年~2014年における「従業者数の業種別内訳」がまとめられています。この図からは、業種別に従業者数の増加・減少のようすを読み取ることができます。2009年~2014年に従業員数が減少した業種をを順にあげていくと、このようになります。

建設業     マイナス約43万人
運輸郵便業   マイナス約28万人
卸売業     マイナス約12万人
製造業     マイナス約11万人

このような労働力不足を解消するため、政府は「働き方改革」の必要性を訴えました。働き方改革は、製造業においても必須の課題です。

労働力人口不足により生産性向上は必須課題

労働力人口不足により生産性向上は必須課題

出典:平成29年版厚生労働白書 資料編 

上図は、少子高齢化に伴い、日本の労働力の年齢的比率が変化することを示しています。15歳から64歳までを「生産年齢人口」と呼びますが、その比率は徐々に減少し、かわりに65歳以上の「老年人口」の比率が上昇していきます。1990年には老年人口はわずか5.6%でしたが、2030年の予測においては13.1%を占めるという試算が出ています。2030年問題は、この年日本の総人口の1/3が老年人口になるという試算ですが、それは労働人口にも反映されるのです。

ワークライフバランスを実現した魅力ある職場へ

働き方改革を推進するうえで、最も企業が多く取り組んでいるのは「労働時間の短縮」と見られています。特に、製造業においては「業務プロセスの見直しや改善」をはかるという対策が最も多く取られ、業務の効率化の実現の上に労働時間の短縮を可能にしようとする取り組みがおこなわれています。労働環境の改善や、従業員のワークライフバランスの実現は魅力的な会社をつくり、中小企業の悲願である若い人材の雇用にもつながると考えられているのです。

女性・外国人といった労働力多様化への備え

労働力不足を解消するために、企業は多様な人材の登用をすべきと叫ばれています。多様な人材には、女性、外国人、シニアなど性別や年齢、国籍を超えた人材が含まれます。製造業においても、ダイバーシティの推進が人手不足解消の鍵の一つであるのは間違いないでしょう。

女性をはじめとする多様な人材の活躍は、少子高齢化の中で人材を確保し、多様化する市場ニーズやリスクへの対応力を高める「ダイバーシティ経営」を推進する上で、日本経済の持続的成長にとって、不可欠です。

経済産業省

2018年版中小企業白書における生産性向上のポイント

2018年版中小企業白書における生産性向上のポイント

「中小企業白書」2018年版では、中小企業の経常利益が過去最高水準であったことについて冒頭で取り上げています。すなわち、景気は改善傾向であるといえますが、その一方で、中小企業と大企業との間には生産性の格差が存在し、拡大傾向にあることにも触れています。労働生産性の低下の背景にあるのは、人手不足です。国家的な人手不足を凌駕し、一人ひとりの生産性向上を目指すための対策として、同書は次の5つの取り組みについてまとめています。

業務プロセスの見直し

同白書によると、中小企業が実際におこなった取り組みとして最も 多く挙げられたのは「業務の標準化・マニュアル化」で、40.2%を占めました。次いで「不要業務・重複業務の 見直し・業務の簡素化」が40.0%、その次が「業務の見える化」で30.6%という割合になっています。その他には「業務の細分化・業務の担当の見直し」が続きました。一口に業務プロセスの見直しと言っても、何が最適化は業種によって違うことから、業種に合わせた取り組みがおこなわれているようです。

設備投資の必要性

同白書資料によると、中小企業の設備投資は、投資額において緩やかな増加が見られています。製造業においては、2016年にこれまでの増加傾向がいったん下降しているものの、総じて見れば増加傾向にあります。これは、製造業・非製造業両方にいえる動きですが、どちらもリーマンショック前の水準にはまだ達しておりません。設備投資の実施率についても、2010年以降は製造業・非製造業ともに増加傾向にあり、こちらはリーマン・ショック前の水準を上回ってきています。

「IT」活用

中小企業でのITツール利活用を業種別に見ると、製造業においては「受発注」と「在庫管理」での導入比率が高いことが分かります。ただし、ここでいわれるITツールとは、オフィスシステムや電子メールも含み、必ずしも基幹業務システムの導入を指してはいません。発注書を手作業でエクセルに入力するようなケースでも、IT利活用の一例としてカウントされています。同白書では、IT の導入・利用の課題も調査。費用対効果と「従業員が使いこなせない」など人材面の、2点がIT導入のネックであることをあぶりだしています。

人材活用面の工夫

中小企業における「多能工化・兼任化」と「アウトソーシング」への取り組みについても調査されました。同白書によると、回答者である中小企業の73.3%が多能工化・兼任化に取り組み、全体の28.5%が3年前よりも積極化したことが分かります。アウトソーシングの実施は人手不足に対して効果的ですが、既に取り組んだことがある企業は50.5%で、そのうち14.1%が3年前よりも積極化しました。一方、アウトソーシングに取り組んでいない企業は49.5%でした。

働き方改革・IT導入などの成功事例

働き方改革・IT導入などの成功事例

最後に、「働き方改革」のリアルな事例を紹介していきます。今回は、印刷業1社と製造業2社の事例を取り上げていきます。事例は、マネージメント情報メディアSELECKと、IT経営マガジンCONPASSオンラインから引用します。生産性を向上させ、これまでのような非効率な働き方はやめたいと願う会社は多いはずです。これらの中小企業の働き方改革には、あなたの会社に活かせる内容もあるのではないでしょうか。

SNSで残業を30時間カット:第一印刷所

老舗74年の株式会社第一印刷所は、印刷や編集、ホームページ制作を手がける老舗企業です。同社は、ビジネスチャット「LINE WORKS(ラインワークス)」を導入し、残業時間30〜40時間の削減に成功しました。また、新潟本社と営業拠点、営業担当と製造部門の間のコミュニケーションの非効率も解消できました。チャット感覚で使える点、固定表示される掲示板機能、ストレージ(Drive)などの機能が、同社がLINE WORKSを導入した決め手となりました。

70代もevernoteで情報一元化:石崎電機製作所

創業88年の電機メーカー・株式会社石崎電機製作所は「男前アイロン」などの商品で知られています。同社は「Evernoteビジネスプラン」を導入し、書類・画像・名刺まで一元管理、ペーパーレス化と情報の透明化を実現させました。なんと3年前は、社内の情報共有は「封筒」と「管理票」でおこなわれ、情報は紙ベースで倉庫に原本保管。特定の社員しか、置き場所が分かりませんでした。「Evernote(エバーノート)」を20代〜70代社員に個別レクチャー。全員が活用できるようになりました。

ホームページ立ち上げで新規客獲得:三元ラセン管工業株式会社

三元ラセン管工業の事業内容は、ベローズ、フレキシブルチューブ等の製造業です。足で営業をしようにも、顧客のポテンシャルが分からないため、同社の1つめの働き方改革である「ホームページ」を導入。ホームページで情報発信し、展示会に誘導する「行かない営業」の確立に成功しました。また、業務プロセス見直し、「多能工化」と資格の給与反映制度、顧客管理システムなども導入。労働環境では完全週休二日制を導入し、「若者が働きたくなる」会社へのシフトチェンジを成功させました。

まとめ

「中小企業白書」で報告された、2018年度の働き方改革の動きを紹介してまいりました。
特に、製造業の生産性向上への取り組みに注視したところ、一般的に業務プロセスの見直しは中小企業にとって比較的取り組みやすいのに対し、ITツールの利活用はハードルが高いことが分かりました。しかし、成功事例では、紙ベースの情報管理や口伝達といった旧態依然のスタイルが、身近なITツールでデータ化・一元化されています。若い人材の雇用を見越した取り組みともいえ、将来的視点からも大きな成功事例だといえるでしょう。