日本の製造業の人手不足はより深刻化。今後の製造業の課題は?

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製造業における「人手不足」が深刻化しています。しかし、製造業にきつい労働といったマイナスイメージがつきまとうためか、人手不足はなかなか改善されません。
時は働き方改革の真っ只中、2019年4月に関連法の施行が始まり、製造業も長時間労働の是正などに取り組みはじめています。また、世界的には第四次産業革命が進む中、製造業はIoT化や「モノからサービスへ」をキーワードに、大きな技術革新の時にあります。

製造業の人手不足の実態とは

「ものづくり」とも呼ばれる製造業は、円高や経済新興国の台頭に脅かされながらも、長年にわたり日本の産業発展の屋台骨となってきました。
その製造業において、日本の全ての産業がそうであるように「人手不足」の危機に見舞われています。人手不足の原因は、後述しますが「3K」などの言葉に代表されるようなイメージの悪さを始めとした複合的な理由があります。2020年に向かってオリンピック景気に沸くなか、製造業の人手不足の実態はどれほどのものでしょうか。

94%以上の大企業・中小企業が人材不足

経済産業省の「製造業における外国人材受入れに向けた説明会」資料から、現在の製造業における人手不足について説明します。
平成30年12月に経済産業省がおこなった調査結果によれば、人手不足は、94%以上の大企業・中小企業において顕在化しています。このうち32%の企業が「ビジネスにも影響が出ている」と回答しており、このような回答をした企業の業種は、上位から輸送用機械、鉄鋼業、非鉄金属、金属製品となりました。

「技能人材」において突出

「技能人材」において突出
出典:経済産業省
上図は、製造業における人手不足の現状を調べた同資料から「確保に課題のある人材」についての回答を図表化したものです。図から分かるように、人材確保に課題のある人材としては、「技能人材」が突出しています。製造業における技能人材は、複数回答でも、特に確保が課題となっている職種への回答でも群を抜いて割合が高く、会社規模別にみると、中小企業ほど「技能人材」の確保に苦労していることが分かりました。

未充足求人が多い業界第3位( 15万人)

内閣府によると、未充足求人はリーマンショック後から増加傾向にあり、会社規模別では、特に従業員数1000人未満の中堅・中小企業での増加が目立っています。産業別に未充足求人数を見ていくと、次の順位になります。

  1. 宿泊・飲食サービス業:26万人
  2. 卸売・小売業:22万人
  3. 製造業:15万人
  4. 運輸・郵便業:14万人

1位の宿泊・飲食サービス業、2位の卸売・小売業に限っては、パートタイムの未充足求人を含みます。このことから、製造業の人手不足の深刻さがうかがえます。

製造業が人手不足に陥る原因とは

製造業が人手不足に陥る原因とは

製造業が人手不足に陥る原因とは何でしょうか。少子高齢化にともなう労働人口の減少は全業界に及んでおり、製造業だけの問題ではありません。しかし製造業には、きつい労働であるというイメージがつきまとうなど特有の要因があります。これは運輸業や建設業にもいえることです。また、製造業には「ものづくり」として日本の基幹産業の位置を保ってきた歴史がありますが、工場のIoT化など、経営刷新の必要性に応えられるかという問題もあります。

東京オリンピック需要

震災からの復興事業や2020年にひかえた東京オリンピックも、人手不足の原因の一つです。業界別だと最も人手不足が顕著な業界は「建設業」ですが、製造業にも影響は及んでいます。このように需要が増えているのに、従業員数が増えなければ当然人手不足になります。また、東京オリンピックの後は景気が冷え込むと見られていることも、雇い控えを生むことから人手不足を解消できない理由の一つになっています。

イメージの悪さ(3K)

製造業界には、いまだに「きつい、汚い、危険」のいわゆる「3K」のイメージがあります。長時間労働のイメージもありますし、業界イメージは良いとはいえません。このような状態では、「デジタルネイティブ」と呼ばれる若者たちを確保できる可能性が低くなるばかりです。若い層を含め求職者を集めるためには、IT導入などで業務効率化を図ることと、働き方改革が推進する労働条件の改善をはかることが急がれます。

世代交代の時期にあること

製造業においても他業界と等しく、世代交代の時期にさしかかっていることも、人手不足の理由の一つです。別の経済産業省資料によると、平成29年から10年の間に、平均引退年齢である70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は、約245万人にもなります。このうち、約半数の127万人(日本企業全体の約3割)が後継者未定だというのですから驚きです。このままいくと廃業が急増し、2025年頃までには約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性が見られるのです。

製造業に今後課せられた課題と取り組みとは

製造業に今後課せられた課題と取り組みとは

日本ものづくり白書2018は、冒頭で製造業の今後に対する様々な懸念を列挙しています。
これによると、日本の製造業には人材の量的不足に加え、抜本変化に対応できていない質的な「デジタル人材不足」の問題、品質への過信などの変革の足かせなど、産業の将来性から見れば克服を急がれる課題が複数あることが分かります。その実現を果たすために最も必要なのは「人材」です。デジタル人材の育成は、ものづくり革命になぞらえて「人づくり革命」と呼ばれています。

デジタル人材育成

労働者が「量的」に不足しているのに加え、IoT化などIT先端産業に「質的」に対応できていないおそれを「デジタル人材不足」と呼んでいます。また、システム思考の低さも全体的に問題視されています。
同資料によると、そもそもデジタル人材が必要だと考える企業は全体の約6割です。大企業・中小企業の間では約25%もの開きがあり、不要と考える理由は「費用対効果が見込めない」「自社の業務に付加価値をもたらすとは思えない」などが大半です。メリットの理解が先決だといえます。

5S活動(整理・整頓・清掃・清掃・しつけ)

5Sとは職場の管理の基盤づくりの活動で、「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」の頭文字の5つの「S」をとったもの。もともとは製造現場において、安全や品質向上を目的として「整理」「整頓」「清掃」の3つを中心に「3S」活動として取り組まれてきたが、その後「清潔」「しつけ」が加えられて「5S(活動)」として定着した。
コトバンク

なかなか改善が進まない業種には、この5Sが欠落しているといわれます。3Kといわれる製造業のイメージ改善に効果があることを期待されています。

高付加価値化で労働生産性向上

これまでの製造業は「モノ」の生産が目的であり、大量生産やオフショア化などで競争力を保ってきました。しかし、現在は「モノ」から「サービス・ソリューション」へと、付加価値が移行しました。今後の生き残りのためには、新たな環境変化に対応した付加価値獲得が必要になります。現場ではITツールを導入すると、従来の単純反復作業や身体的高負担業務等から解放されます。そしてより高付加価値の業務へ移行できます。同資料によれば、今後製造業に求められるのは、人とデジタルツールとの組み合わせを設計していく力だとしています。

まとめ

前述のように製造業は15万人もの未充足求人を数え、業界別では第3位の深刻さでした。人手不足はほとんどの産業において等しく問題ですが、一方で金融・保険業では、未充足求人がほとんど存在しません。産業によって、これほど大きく差があることが驚きです。
製造業はインダストリー4.0に代表されるような技術革新の時期にあります。世代交代の時期が世界的な技術革新と時を同じくしており、次代のリーダーのリテラシーも求められています。