中小企業の人手不足の現状と原因とは。対策方法とIT導入事例も紹介

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人手不足は日本経済全体の問題であり、将来的にはますますその深刻さが増すことが懸念されています。政府も、将来の人手不足に対する対策を次々と発表しています。
例を挙げれば、「労働生産性の向上」や「女性・シニアの労働者の雇用拡充」「外国人労働者の雇用」「企業の副業解禁」など様々な対策を打ち出していますが、それらは、近い将来に日本が迎える深刻な人手不足を解消せんがためのもの。この問題はもちろん、日本の経済を支える中小企業にとっても由々しき問題です。

中小企業における人手不足の現状

【業種別従業員数過不足 DI の推移】
2018年版「中小企業白書」より中小企業における人手不足の現状
出典:2018年版「中小企業白書」

上図は、2018年版「中小企業白書」から引用したものです。この図表は、第一節「中小企業において深刻化する人手不足」で、各業種における従業員数過不足DIの推移を確認するために作成されました。DIとは、景況の行き先を判定する指数をあらわします。この図から、中小企業における人手不足がいかに深刻なものか読み取っていきましょう。

人手不足感は全ての業種において2009年をピークに下降

図を見るとお分かりのように、従業員過不足DIは2009年をピークに下降の一途をたどっています。業種別でも製造業、建設業、卸売業、小売業、サービス業の全業種において、2009年からマイナス方向に転じています。卸売業は、諸対策が功を奏してか時おり数値が盛り返していることが分かりますが、それでも全体的には人手不足に加速がかかる一方です。最も深刻なのは建設業とサービス業ですが、とりわけ建設業における人手不足は深刻であることが顕著に表れています。

小規模ほど未充足率が低い

また、企業の従業員規模別に人材の未充足率(欠員率)を見ていくとどうなるのでしょうか。「中小企業白書」によると、規模の小さい企業ほど、人材の未充足率が高いことがわかります。例えば、従業員1000人以上の会社では、人材の未充足率は0.4%なのに対し、従業員5~29人では3.2%と8倍ほどにも高くなってしまうのです。また、製造業と非製造業を比較してみると、非製造業のほうが総じて人材の未充足率が高くなっていることが分かります。非製造業とは、運輸業、金融業、建設業、飲食店業などを指しています。

負のスパイラル

人手不足と聞くと、労働者にとっては「景気の回復」「売り手市場」といったプラスの側面もあります。しかし、企業にとってはサービスの質に関わる問題であるため深刻です。人手不足が更なるマイナス要因を産み、その結果簡単には抜け出せない「負のスパイラル」にはまってしまう可能性があるからです。詳しく説明すると、人手不足→ひとりあたりの負担が増える→商品・サービスの質の低下→売り上げ・利益減少→労働環境が悪化→さらなる離職につながる、恐ろしい負の連鎖です。

中小企業における人手不足の原因

中小企業における人手不足の原因
中小企業における人手不足は、小規模経営の会社ほど深刻な問題になっています。また、人手不足は負のスパイラルを引き起こし、会社の存続にかかわる「商品・サービスの質」も低下させてしまいかねないことは既に述べました。今日のような人手不足に陥っている原因には、いくつかありますが、まずは企業が「採用難」の事態に陥っていることです。平成29年9月の有効求人倍率は1.52倍であることからも、完全失業率が低下し、人材への需要は雇用者の数を大幅に上回っている状態なのです。

オリンピック特需ともいえる景気回復

2020年に開催される、東京五輪・パラリンピックによる経済の活況を「オリンピック特需」と呼びます。その恩恵にもっともあずかっているのが建設業界です。
しかし、前述のように、建築界は深刻な人手不足に悩まされている状態です。ネックとなっているのは、労働生産性の低さや、それに付随する若者離れ。これらは建築業界全体の問題として対策が急がれています。マスコミ等では、オリンピック以降建設業の景気は冷え込むといわれましたが、都市再開発など、潜在的な需要はまだまだ伸びるとの見方もあります。

労働力人口の少子高齢化

15~64歳を「生産年齢人口」と呼びます。前述の「中小企業白書」によると、日本の生産年齢人口は1995年の約8,700万人がピークで、その後は減少を始めました。
2015年には約7,700万人に減少しましたが、この減少傾向は継続すると見込まれており、2060年には約4,800万人にまで減少すると推計されています。労働力人口の年齢構成においても「少子高齢化」が進んでいます。44歳以下の労働者の占める割合は、全業界で減少傾向にあり、代わりに55歳以上の労働者の占める割合が増加しているのです。しかも、特筆すべきは、60歳以上の労働者の増加率が大幅にアップしていることです。

労働力人口の減少(2030年問題)

2030年問題とは、2030年に日本に生じうる人口減少と高齢化の問題のことです。2030年には、日本の総人口は約1億1,912万人に減少するとの予測が出ています。この時、総人口の31.1%にあたる約3,715万人が65歳以上の高齢者となるという、衝撃的な予測があることは既にご存知でしょう。つまり、日本人の3人に1人が、65歳以上の高齢者となってしまうのです。この問題は、将来の若者の負担増と日本の労働力の打撃的な減少を意味しています。政府が「働き方改革」で労働生産性の向上を訴えたのは、このような将来的な危機を見据えての対策だったのです。

IT導入事例

【IT の導入・利用を進めようとする際の課題】

 IT導入事例

出典:2018年版「中小企業白書」

企業の労働生産性を上げるための対策には様々ありますが、その一つにはIT導入があります。オフィスシステムの使用からシステム導入まで、様々な活用方法がありますが、導入率はまだまだ低いといえます。「中小企業白書」によると、IT導入に二の足を踏む理由トップは「コストが負担できない」30.6%、「導入の効果が分からない・評価できない」が29.6%、「従業員がITを使いこなせない」が21.5%となり、企業規模、年齢的構造も関係すると思われる回答でした。しかし、IT導入の成功事例もいくつか掲載されていたのでご紹介します。

丸友青果株式会社

丸友青果株式会社
金沢市の丸友青果株式会社は、タブレットを活用して手作業の伝票入力を合理化しました。同社は基幹システム導入を既におこない、売買、売上等を管理していたが、伝票入力業務が大きな負担となっていました。そこでタブレットの活用に着想。手軽さやコスト面からもメリットは大でした。営業には年配者が多いため、文字やカーソルエリアも大きくし、Bluetooth 接続のテンキーもカスタマイズ。導入費用(システム開発、タブレット代) 150 万円で、年間約400万のコストカットに成功しました。

マスオカ東京株式会社

東京都のマスオカ東京株式会社は、Oリングなどゴム製品の卸売業者です。数年前、人手不足対策から在宅勤務を導入していたが、営業担当との連携や顧客情報の共有をスムーズにおこなえない課題がありました。そこで、既に検討していたクラウドを活用した営業支援システムを導入。初期費用が百数十万円、うち半額を IT 導入補助金でまかない「Kintone」がベースのクラウド営業支援システムを導入しました。同社は、将来的には梱包・発想まで自動化し、社員は顧客対応などヒューマンな関わりに専念させたい考えです。

株式会社宝角合金製作所

姫路市の株式会社宝角合金製作所は、商工会議所から諸対策の提案を受け、生産工程を「見える化」して生産性向上を推進しました。同社は産業機械向け部品の製造業で、納期遅れ対策など生産性向上が課題でした。人手も不足。姫路商工会議所からは「ミラサポの専門家派遣制度」と「ものづくりIT 化推進事業(補助金)」を提案され、その結果工場内のWi-Fi 化とWindowsタブレット活用を採用。端末の故障率もダウンし、作業効率もアップしました。ミラサポは自己負担無し、Wi-Fi 化は補助利用額が上限の 100 万円、自己負担額は 117 万円でした。

まとめ

日本の人手不足には、労働人口の構造的な高齢化が関係していることを解説しました。また、現在は有効求人倍率が上昇の一途をたどっており、市場は求職者の「売り手市場」に転じている状態です。このような状況の中、企業が若い人材を雇用したければ、彼らにも魅力を感じてもらえるような「業務効率化」と「生産性向上」を実現した職場を目指さなければいけないでしょう。そのためには、今回取り上げたIT導入の成功例は、中小企業にとって学ぶところが多い教材となると思われます。