製造業で用いる生産性の指標とその計算法とは。生産性向上に成功した3つの事例
働き方改革は、人手不足が加速する状況への対策として「労働生産性の向上」を掲げています。しかし、労働生産性とはそもそも何を意味し、どうやって計算するのでしょうか。また、生産性を語る時に「付加価値」や「労働分配率」といった指標も良く耳にしますが、これらも何を意味し、どうやって計算するのでしょうか。
この記事ではこれらの疑問を解決し、労働生産性を向上させた製造業の事例もあわせて紹介します。
「生産性」とは
公益財団法人日本生産性本部によると、生産性の代表的な定義は「生産諸要素の有効利用の度合い」です。
分かりやすくいうと、生産性とは「生産要素」を投入することによって得られる「産出物」 (製品・サービスなど)との相対的な割合のことです。
「生産要素」とは、何かを生産する時に必要になる機械設備や土地、建物、エネルギー、原材料のことで、設備を操作する人間も含まれます。つまり、生産をおこなうために必要となる全てのもののことです。
生産性を示す指標とは
生産性を求める計算式は、次のようになります。
生産性=産出(output)/投入(input) |
日本生産性本部は、生産性を次のように言い換えています。
生産性とは、あるモノをつくるにあたり、生産諸要素がどれだけ効果的に使われたかということであって、それを割合で示したものが生産性ということになります。
日本生産性本部
「生産性が低い」例として、最先端の工作機械を導入したにも関わらず、操作する人が未熟だったり操作ミスがあったりして、工作機械が上手く使えずに故障してしまう場合を挙げています。この場合、生産諸要素の有効利用度が低い=生産性が低いということになります。
物的労働生産性と計算方法
生産性には「物的労働生産性」と「付加価値的労働生産性」があります。それらの違いと計算方法は次の通りです。
物的労働生産性 = 産出量/従業員数 |
物的生産性の計算方法では、生産物の大きさや重さ、個数などといった「物量」を単位とします。生産能力や生産効率の推移表を作成したい場合には、物的生産性が用いられます。
純粋な生産効率を測りたい場合、変動しやすい価格ではなく物量を単位に採用して計算されるからです。
付加価値的労働生産性と計算法
付加価値的労働生産性の計算方法は次の通りです。
付加価値的労働生産性 = 付加価値額/従業員数 |
付加価値とは、企業が外部からの購入品を加工するなど、手を加えることで新たに付け加えた価値を金額で表したものです。
付加価値的労働生産性の計算方法では、企業が新しく生み出した価値、つまり付加価値を「単位」とします。付加価値の計算方法は以下の通りです。
付加価値=生産額(売上高)-外部からの購入費用(原材料費、外注加工費、機械の修繕費、動力費) |
製造の労働生産性と労働分配率
労働生産性を語る場合、国際的には物的労働生産性ではなく、付加価値的労働生産性の方を指します。一般的には、中小企業で労働生産性が1000万円を超えていると、人的資源を上手く活用していると評価されるといわれています。生産性向上のためにはこの人的資源の活用度合いも鍵となります。チームワークやモチベーションの有無もさることながら、付加価値を生産しない仕事が多すぎると生産性は向上しません。
また、労働分配率も労働生産性を見る上で重要な指標です。
製造業の労働生産性
製造業は、労働生産性の高い業界だといわれています。反対に労働生産性が低いといわれるのはサービス業界などです。
製造業の付加価値的労働生産性を計算する場合、付加価値に代わって「加工高(売上高から材料費と外注費を差し引いた額)」を用います。加工高は「売上高から材料費と外注費を差し引いたもの」を従業員数で割って計算します。
製造業の付加価値的労働生産性=加工高(売上高-材料費-外注費)/従業者数 |
非製造業の付加価値的労働生産性を計算する場合は、付加価値の代わりに「売上総利益」を用います。
非製造業の労働生産性
非製造業の付加価値的労働生産性を計算する場合、付加価値の代わりに「売上総利益」を用います。
非製造業の付加価値的労働生産性=売上総利益/従業者数 |
サービス業は、多くの従業員を必要とする「労働集約型産業」です。分子となる設備投資額も大きく付加価値が高い産業も多いですが、分母となる従業員数が非常に多いため、労働生産性が低くなってしまうのです。サービス業における労働生産性を上げるためには、人的省力化やサービスの更なる高付加価値化が求められるでしょう。
労働分配率と求め方
労働生産性を更に深く分析する指標として、「労働分配率」があります。労働分配率とは、付加価値のうちどのくらいの割合が人件費に回されているかを示す指標です。計算式は次の通りです。
労働分配率(%)=人件費/付加価値額 |
一般的に、労働分配率が60%を超えると会社の収益は厳しくなるといわれています。製造業は省力化が進んでおり、人件費より設備投資などの割合が著しく高い「資本集約型産業」です。資本集約型産業は、売上総利益に占める人件費は低比率、つまり労働分配率が低いのです。
生産性が低くなってしまう原因と解決方法
生産性が低くなってしまう原因は一体どこにあるのでしょうか。次に、生産性が低下する要因とその解決方法について解説します。
生産性が低下する要因
生産性が低下する要因としては、主に下記のようなものが挙げられます。
無駄な業務が多い
成果に繋がらない無駄な業務が多い場合、生産性は低下してしまいます。あらゆる業務は「売上」や「利益」、「KPI」といった結果に繋げるために設けられているはずですが、場合によってはそこに向かっていないものが慣習的に行われているケースもあるでしょう。
「生産性」という指標が「投入リソースに対する結果(アウトプット量)」である以上、リソースを要する業務が増えれば増えるほど低下しやすくなります。また、無駄であることが周知されている場合、処理している従業員のモチベーションが下がってしまう恐れもあります。
定量的な効果測定を行っていない
定量的な効果測定が行われていない場合にも、生産性は低下しやすくなります。業務および結果に対する評価は可能な限り定量的に行われていることが好ましく、そうでない場合は無駄な業務が増える土壌になってしまう恐れもあるでしょう。
「定量的」というのは、「数値化されている状態」とも言いかえられます。数値という客観的な基準を用いて効果を測定すれば、状況を正しく見極めることが可能です。
残業を前提にスケジュールを組んでしまう
定時内に業務が終わらない場合、残業して処理するのが定型化している職場も多いものです。しかし、定時に終わらない業務量を残業前提でスケジューリングしてしまうと、生産性低下要因になりえるため注意が必要です。
なぜ、残業を全体にすると生産性が低下してしまうのでしょうか。ピンポイントに行う残業であればまだよいのですが、終日残業が発生し長時間労働が当たり前になっていると、次第に現場が疲弊していきます。
十分な休息やリフレッシュが行われていないと、業務を適切に処理する力が低下し、生産性が落ちてしまう恐れがあります。
生産性を向上させるには?
では、それらの要因に対し、どのように対処すればよいのでしょうか。次に、生産性を向上させるための手法について解説します。
ワークフローを見直し、無駄を省く
ワークフローを見直し無駄な業務を省くことで、生産性向上に繋がります。前述の通り、無駄な業務がワークフローに混入しているとそこにリソースが割かれることになるため、自ずと生産性は低下します。
何が無駄で何が無駄ではないかと見極めるのは難しいですが、「結果に寄与しているか否か」もしくは「コストパフォーマンスが高いかどうか」といった基準で判断するのがよいでしょう。結果に繋がらない業務に人手を割くのは得策ではありませんし、リソースに対する効果が低い業務もカットした方が全体としての効率化に繋がるかもしれません。
ただ、一件無駄に見える業務でも、実は大きな役割を果たしていることもあります。俯瞰的、かつ柔軟な見極めが必要でしょう。
業務システムやツールを導入し、業務効率化を図る
業務システムや各種ツールを導入することで、業務効率化を図り生産性向上に繋がります。業務システムやツールを導入する理由の一つに「既存業務の置き換え(自動化)」が挙げられるのではないでしょうか。
既存の業務をシステムやツールで補い自動化すれば、空いたリソースを他の業務に充てることができます。すなわち、投入リソースに対する成果量である「生産性」を向上させやすくなるということです。
AIによる生産性向上の可能性
近年、製造業においてAI技術の活用が注目を集めています。
AIは大量のデータを高速に分析し、パターンや傾向を見つけ出す能力を持っています。
これにより、生産ラインの最適化や効率的な作業プロセスの設計が可能になります。
AIは機械学習やディープラーニングを通じて、過去の生産データを学習し、将来の生産予測や品質管理に役立つ情報を提供します。
また、AIを活用した自動化やロボティクスも生産性向上に寄与し、単純なタスクの自動化から複雑な工程の自動化まで幅広い領域で効果を発揮します。
生産性向上の取り組み事例
2018年版「中小企業白書・小規模企業白書概要」は、アンケート調査から集めた中小企業・小規模企業の「生産性向上に向けての取り組み」113例と、「生産性向上に向けたヒント」10例を紹介しています。参考になる内容が多く見つかるので、一読されることをおすすめします。
以下、同資料から引用した事例2つと株式会社横井製作所の事例を紹介していきます。業務の平準化によって全体的な労働生産性を上げたり、製品の付加価値を向上させたりといった事例です。
M&Aを契機に付加価値を向上:株式会社HME
株式会社HMEは、M&Aをきっかけに、付加価値向上を図ることに成功しました。同社は従業員100名の計測機器メーカーですが、M&Aによって自社事業と親和性の高い事業を3社から取得します。具体的には以下のような事業です。
- 大企業が継続不能になった事業
- 倒産企業の事業
- 後継者難の企業の事業
その結果、取得した技術と自社技術との組み合わせがシナジーを発揮し、新たな計測機器・分析機器の開発に成功しました。グループ全体の収益も向上しました。
スキルマップで業務平準化し生産性向上:株式会社環境技研
株式会社環境技研は、従業員のスキルマップ作成を契機として多能工化をおこないました。多能工化に伴い全体の業務を平準化したことが、生産性の向上につながった事例です。
多能工化以前は、受注案件に偏りが生じると特定の調査・検査をおこなう担当に業務が集中していました。そこで、従業員のスキルを一覧化したスキルマップで「見える化」し、他部門にもスキルに応じて柔軟に仕事を割り当てることを可能にしました。一人当たりの年間平均労働時間を、1,500時間から1,400時間に削減できました。
ブランディングで高付加価値的商品の開発に成功:株式会社横井製作所
株式会社横井製作所は消防・防災関連メーカーです。業務効率化が生み出した空き時間で「高い付加価値を体現する製品」開発に取り組み、自社のミッションやブランディングをおこないました。成形機の自動化・オートストッカー(自動箱入れ機)の導入で、大幅な作業効率化に成功した上、他社メーカーと独自の材料を共同開発し、高付加価値的でコスト競争力のあるオリジナルの高品質プラスチック製品を製造。その結果市場競争力、労働生産性が向上しました。
AIを活用した製造業の生産性向上事例
製造業界では、AIの導入により生産性向上の成功事例が増えています。
一つの事例として、製造プロセスのボトルネックを特定し、改善するためにChatGPTを活用したケースがあります。
チーム内でChatGPTを利用し、生産ラインのデータを解析してボトルネックを予測。
その結果を元にプロセスの最適化を行い、生産効率を大幅に向上させました。
このようなAIを活用したアプローチは、労働力の有効活用やリソースの最適化にも貢献しています。
このように、AIの活用は製造業の生産性向上に大きな可能性を秘めており、チーム内で具体的なアクションを起こすための一つの方法として検討する価値があります。
まとめ
労働生産性向上に成功した興味深い事例も紹介してまいりました。具体的には、洗い出した生産性の低い部署に仕事を回すために業務平準化を進めたり、空き時間を生み出して会社のブランディングを図ったりといったものですが、いずれも取り組みやすそうに感じられたのではないでしょうか。
また、いずれも社員の「会社を良くしたい」という気持ちがあってこそ成功するものです。大切な資源である「人材」のやる気を育てることも、指標を上げるためには必要です。