企業の命題・コスト削減の考え方とは?算出方法と成功事例も紹介
「コスト削減」 は、今も昔も企業の命題と言えるテーマです。コストは低いに越したことはありませんが、ただ削減すれば良いというものではありません。企業は、業績の悪化にあえいでいる時は特に「コスト削減」を徹底化しようとしますが、行き過ぎたコスト削減は願わざる結果を招く可能性もあります。
また、コストと一口にいっても様々なコストが存在しますが、削減するならどれから始めれば良いのでしょうか。
この記事ではコストの算出方法と、失敗しないコスト削減の進め方について事例を交えて紹介していきます。
コスト削減をどう考えるか
まずコストとは、売り上げを上げるために必要な費用全般をいいます。材料、備品、水道光熱費、人件費、広告費など、会社の利益を出していくために必要な出費全般を指します。利益=売上高-経費であるため、経費削減は利益増につながっていることが分かります。しかし、やみくもなコスト削減はかえって利益を減少させる可能性もあります。「コストの適正化」は全ての企業の悩むところですが、よく言われるのは「売り上げは予測できないがコストは予測できる」ということです。
利益増につながる
利益=売上高-経費 |
利益とは、ざっくりいえばこのように算出されます。ですので、削減できた経費はそのまま会社の純利益になります。コスト削減は社員一人一人の心がけで実現されるといいますが、確かに規模が大きい会社であるほど、取り組みの成果は大きいでしょう。ですので、コスト削減は単なる心がけにとどめず、目標を明確に設定した上で、成果を可視化しながら計画的におこなっていくことが必要です。
サービスの質が落ちたら本末転倒
既に申し上げたように、コストとは「利益を上げるために必要な費用すべて」のことですので、必ず発生するものです。ただやみくもに削れば良いというものではありません。例えば人件費は会社の経費の中でも大きな割合を占めますが、大幅に人件費を削ったことでブラック企業化し、かえって離職率が上がるという事もあります。また、日々の業務に支障が出る程消耗品を節約すると、社員のモチベーションは確実に低下し、会社の提供するサービスの質まで落ちてしまいかねません。
売り上げアップも経費削減と同じ効果
また重要なのは、「利益増大の方法はコスト削減だけにあらず」ということです。コスト削減すれば純利益が上がるのと同様に、売り上げがアップすれば純利益は上がるのです。つまり、会社の利益を上げるためには、両方とも必要なアプローチだということです。「売り上げを最大化、コストを最小化」することに社員全員がモチベーションを持ち、両方に取り組むことが大事です。
コストの算出方法とコスト削減成功の秘訣とは
何かを製造する過程で発生するコストは、ざっくりいうと「材料費」「労務費」「経費」です。これらを算出するには、それぞれの経費の累計を出せば良いのですから単純です。
しかし、一つの製品を製造するのにかかった総称としての「コスト」はいくらだったのかと問われると、返答が実に難しい問題です。
理論的には、発生した費用を単純に割って足していけば良いことになりますが、正確な実際のコストを導き出すのは難しい作業なのです。
コスト比率の算出方法
コストには、「固定費」と「変動費」があります。それぞれの意味と、その比率の算出方法を紹介します。
固定費=売上高(生産高)の増減に関わらず金額が一定して発生する費用のこと 例:地代家賃、保険料、労務費など 固定費率=(固定費÷売上高)×100 |
変動費=売上高(生産高)の増減に連動して増減する費用のこと 例:水道光熱費(非定額制)、接待交際費、外注費など 変動費率=(変動費÷売上高)×100 |
固定費は金額が変わらないため、算出すると利益の実現性が見えるといわれます。
社員のモチベーションと生産性は低下させない
コスト削減をおこなう場合、社員のモチベーションと生産性を下げない配慮が必要です。例えばコスト削減に固執するあまり、真夏に冷房費を節約して余計稼働率が落ちたりしては本末転倒です。また、ITツールを導入して業務の効率化を図るのは有効な手段ですが、社員への教育が不十分だと操作ミスが続出したりしてかえって手間が増えることもあります。コスト削減計画は、社員がベストパフォーマンスできる就労環境を損ねることなく実行できる内容にしましょう。
「PDCA」の「C=Check」と「A=Action」こそ大事
コスト削減をおこなう際にも「PDCA」を活用しましょう。PDCAとは
P=Plan
D=Do
C=Check
A=Action
ですが、PlanとDoは実行すれど「C=Check」と「A=Action」(修正した計画を基に再度Doする)はないがしろにされがちだといわれます。この傾向はコスト削減に限ったことではなく、計画を立てて実行するだけでCとAには至らない場合が多いようです。「C=Check」はフィードバックのことで、重要です。コスト削減計画に無理がなかったかなどをチェックしなくては、いつまでも成功しないからです。
コスト削減の成功事例
それでは、コスト削減に成功した事例を挙げていきましょう。今回の事例3件中2件には、コスト削減を主導した人物についての記載があります。いずれの主導者もシステムを使用していたりシステム構築を学んだりした経験が役立ち、時間がかかりましたが現場に求められていた自動化やデータ化を実現しました。
また、プランが成功するに至るまで時間もかかりましたが、試行錯誤を繰り返してきちんとPDCAを回していることが分かります。計画を立てるだけでなく成果のほどをきちんと追いかけていることも、勝因の一つといえます。
ペーパーレスと電力の見える化でコスト削減:友星テクニクス有限会社
友星テクニクス有限会社は、衣料品へプリントする熱転写マークの製造・販売をおこなう会社です。同企業のペーパーレス化・システム化は、社会人採用した女性社員の要望から始まりました。彼女が主導でまずシステム化に取り組み、次に熱転写マーク製造に要する電力やガスの経費削減に取り組みました。販売管理システムの導入は、受注や進捗状況、顧客データの社内共有を可能にし、顧客対応などをスピード化しました。“電力の見える化”では、使用電力を13%削減することに成功しました。
スマートものづくりでミスが激減:株式会社ミノダ
株式会社ミノダは刺繍ワッペンを製作するメーカーです。2006年にネットへ参入し、BtoBだけでなくBtoC商品の販売もスタートしました。当時、顧客からの注文書を8人のオペレーターが手作業で指示書に書き換えていましたが、時間もかかりミスも発生しやすい環境でした。繁忙期には、担当スタッフは終電まで残業してもミス連発で顧客に謝ってばかりでした。この状況を打破するためWebシステム導入を決意し、指示書のデータベース化から試行錯誤を続け、2012年には顧客が入力したデータが指示書に自動変換されるシステムの開発に着手、2016年から実用化されました。システム開発には2,500万円ほど要しましたが、東京都中小企業振興公社の助成活用で出費は半分で済みました。現在オペレーターは3名に、残業代などの人件費は1/5になりました。
システムによる工程管理で業務時間削減:株式会社タカハシ
株式会社タカハシは主に自動車部品に使われるゴムパッキンを製造する会社です。従業員5名の町工場ですが月産2,000万個もの商品を大量生産しています。紙ベースからシステム導入への革新は後継者の息子さんが主導しました。まずはデータベースの自社開発をおこなうも次々と問題が浮き彫りになり、そもそもロット管理も出来ておらず不良品発生の原因究明も困難な現状を鑑み、システム開発の業務委託を決断しました。「高齢者でも使える」バーコードリーダーの採用など試行錯誤を経て2008年にシステムを導入。トレーサビリティーが明確になり、品質管理と時短が実現しました。
まとめ
以上の事例から学んだことをまとめてみましょう。
コスト削減をおこなうなら、ただ数値目標を下げるのではなく、ムダを生み出しているボトルネックを洗い出すのが先決です。紹介した成功事例でも、まず現場の非効率の原因を突き止めています。改善を図るべき箇所を知らずに、オペレーションが上手くいっているところのコストも無意味に削減してしまうと、全体の生産性が低下してしまうおそれもあります。
また、コスト削減計画を実行する際はPDCAを回し、特にC=CHECKとA=ACTIONまで必ずおこないましょう。フィードバックを基に改善案を作り、また試してみる。これを繰り返していけば、コスト削減は成功するはずです。