コンプライアンス徹底でより健全な組織に。そのメリットとシステムを活用した成功事例

ビジネス

2000年代に入ってから相次いだ大企業の不祥事は、「この企業がまさか」と思うような法律違反の実態を世にさらけだしました。近年では、従業員の良心の呵責から内部告発によって不祥事が明るみに出ることも多く、このような場合企業イメージは著しくそこなわれてきました。
一部の人たちが犯したコンプライアンスで、会社組織の存続が危機にさらされます。コンプライアンスを遵守する健全な会社と認められるために、取り組むべき内容とは何でしょうか。

なぜ健全な組織づくりにコンプライアンスが必要か

コンプライアンスとは

法律や社会的な通念を守ること。法令順守と訳されることが多い。1990年代後半から企業の法律違反に端を発する事件が相次いで発生したことから、企業はより厳密に法律を守るべきという社会的要請が強まっている。
コトバンク

東京商工リサーチによると、2018年度の「コンプライアンス違反」倒産件数は、194件(前年度211件)発生しました。商法、独占禁止法、脱税、粉飾決算などを犯した企業は、社会的イメージを著しく損い、修復にかなりの時間と企業努力を要します。
コンプライアンスが重要なその他の理由をまとめてみました。

内部統制の限界

会社には「内部統制」の仕組みが敷かれています。大企業には監査法人のお墨付きの体制が敷かれており、企業内部のルールを整備し運用しています。例えば、出張費の精算で架空の旅費精算がおこなわれることを未然に防ぐため、「旅費の精算には上司の承認と領収書の添付が必須です」との通知をします。これが内部統制です。中小企業の場合、経営者が自らこれをおこなうケースが多いですが、コンプライアンス違反を未然に防げていれば十分です。
しかし、この内部統制が、今日限界に達しているといわれています。

コンプライアンス違反倒産の増加

2018年度194件発生したコンプライアンス違反倒産の違反要因は、滞納、脱税など「税金」関連が前年度より約2割増えています。東京商工リサーチは「戦後最長の景気拡大が議論されるなか、業績不振から脱却できない中小企業の一端を浮き彫りにした」と解説しています。2000年代以降、大企業の不祥事が続いたことから、コンプライアンスはリスク管理の一環として企業の最優先事項の一つとなっています。もし問題が生じた場合でも、損失を最小限に抑えられるからです。

国際規格に沿った企業行動規範の必要性

東京商工会議所は、会員企業を対象に発行した企業行動規範の改定を重ねています。2013年におこなった二度目の改定は、2010年に発行されたISO26000(社会的責任に関する国際規格)を念頭に、世界の一員として日本企業が社会的責任を果たしていく観点からおこなわれました。グローバル化により多くの中小企業が海外に拠点・取引先をもつようになり、グローバルな視点を持ち合わせる必要が生じていることが背景にあります。

コンプライアンスに企業が取り組むメリットとは

コンプライアンスに企業が取り組むメリットとは

コンプライアンスは、「法令遵守」という和訳になりますが、企業は「法を犯さなければ良い」というものではありません。企業は法令を遵守すれば良いだけではなく、企業論理、社会規範といった内容もすべて遵守されてこそ、体制が整備された組織として認められます。
そのようなコンプライアンスに取り組むことで、企業にはどんなメリットがあるのでしょうか。

不祥事を未然に防ぐ

コンプライアンスをリスク管理の一環として重要視し、普段からリスクの発見と是正に努めている企業は、重大な過失や不祥事が発覚した場合には早期発見でき、大きなダメージを受けなくて済みます。損失も最小限に抑えることができます。しかし、コンプライアンスを徹底していなかった企業は、大きな損失を被ることになります。法的に違反していると気づかなかった場合がありますが、「知らなかった」では済まされません。コンプライアンス体制の強化に努めましょう。

社会的信用・企業イメージの向上

コンプライアンス体制を強化すると、社会的信用や企業としての価値の向上にもつながります。例えば、株主に対してもリスクの少なさがアピールでき安心感を与えることができますし、コーポレート・ガバナンスとして企業のコンプライアンス体制をホームページなどで公表すれば、消費者をはじめとした利害関係者(ステークホルダー)から、信用を得ることができます。大多数の大企業は、ホームページで自社のコンプライアンス体制について表明しています。

CSRの重要性(ステークホルダーを守る)

今日コンプライアンスと同様に重要視されているのがCSR(Corporate Social Responsibility「企業の社会的責任」)です。「企業の事業活動を、経済だけでなく環境や社会・倫理的側面にも配慮しておこなうことで、消費者をはじめとするステークホルダー(利害関係者)と信頼関係を構築し、社会と企業の持続可能な発展を追及すること」という意味です。
例えば、2018年の「コインチェック問題」が発生した仮想通貨取引業界は、まだ法令が追いついておらず、コンプライアンス体制の整備が急がれています。コンプライアンスは、今や企業経営の重要な経営戦略の1つなのです。

システム活用などの成功事例

システム活用などの成功事例

コンプライアンス体制の徹底と一口にいっても、業務内容によって充実させるべき法律の分野が変わってきます。
下記で取り上げる事例は、事業内容の発展段階に合わせてコンプライアンス強化が必要となったり、浮上した問題に対する対策が必要になったケースです。それぞれ、遵守すべき法律の分野を踏まえてコンプライアンス体制を整備しています。

システムで法令手続きの確実な把握:関西電力

今後の国際事業の積極的な展開を視野に入れる関西電力は、コンプライアンスをより徹底し、現地の法令やルール遵守、社会的要請への適応に努めようとしています。具体的には、外国公務員等に対する贈賄防止に関する社内規程制定や不正な贈答・接待などの禁止事項の明確化などです。
また「コンプライアンス相談窓口」を設け、従業員に加え取引先の従業員も利用可能とし各種法令違反・不適切な職場の業務運営といったコンプライアンス上の疑問について相談を受け付けています。

不正チェック機能で労働法遵守:アールシースタッフ株式会社

人材派遣会社「アールシースタッフ株式会社」が以前使っていた派遣業務用システムは、派遣法に触れるような操作をおこなっても何のチェック機能もありませんでした。派遣会社が遵守すべき法律は「労働者派遣法」「労働基準法」で、 過去には違反で会社が倒産した例もあります。いくら利益が出てもコンプライアンスを守れないと会社の存続はありえません。
派遣法改正や税制の変更がある度キャッチアップとコンプライアンスの徹底が求められるため、システムの不正チェック機能は大変役立っています。

病院のコンプライアンス経営:聖隷浜松病院・岡山県病院協会

聖隷浜松病院は「医療安全ポケットマニュアル」を作成し、職員全員に常時携帯を義務付けています。

  • 医療事故/インシデントへの対応方法
  • 医療における重大事故/有害事象発生時の対応方法
  • 患者誘拐発生時の対応方法

などの内容ですが、報告の内容などを踏まえ毎年改定されています。
また、問題行動のある患者への対策には、警察官OBの配置、院内弁護士の採用などが有効ですが、中小病院にはコスト負担が大きすぎます。岡山県病院協会は、法律事務所と契約し、協会所属病院は必要な時に顧問弁護士に相談ができるようにしています。

まとめ

2018年の東京商工リサーチ調べ「コンプライアンス違反」倒産の件数は、194件と3桁台ではありますが、この背景にはインターネットやSNSの普及の影響があることも偲ばれます。「イメージ」が企業の業績に大きな影響を与える時代となったことを考えると、コンプライアンス体制の徹底は「リスク管理」として積極的におこなわれるべきです。
そうすれば社員の意識を高めることができ、事後対策よりも圧倒的に効果的に、企業価値を守ることができます。