「製造業のサービス化」が求められる背景と今後の製造業の在り方とは

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製造業は、日本の中心的な産業としての役割をながく務めてきました。「ものづくり」という言葉を政府が採用したことにみられるように、日本のお家芸的な存在の産業だといえます。円高や貿易摩擦、新興国の台頭など、度重なる逆風にも耐えてきました。
いま、そんな製造業にもデジタル化が訪れ、提供する製品の内容もその影響を受けています。「製造業のサービス化」と呼ばれるビジネスモデルの変革は、どのように起こり、どんな方向を目指すのでしょうか。

「製造業のサービス化」とは?

「製造業のサービス化」という言葉を聞かれたことはありますか?

近年、先進国では製造業のサービスシフト(サービス化)といわれる現象が起きています。これは単にサービス事業の拡大という意味にとどまらず、製品にサービスを組み込むことによるものづくりの変化、それに伴う製造業のビジネスの革新を指します。
日本経済新聞

このように、製造業は単にモノを作ればいいだけではなく、製品にサービスを組み込んで新しい「付加価値」を与えて提供する時代を迎えました。

価値提供から価値共創へ

製造業が作った商品を単に提供することを「価値提供」と呼ぶならば、ソーシャルなサービスを展開したりしてもう一歩付加価値を与えることを「価値共創」といいます。分かりやすい例を挙げましょう。例えば食品製造業の場合なら、価値提供するとは単に、例えば「カレー粉」を製造・販売することです。カレー粉で価値共創するとは、例えばそのカレー粉を使ったレシピや、その商品を使った料理のフォトコンテストをSNSで共有することを指します。今、「共有」はビジネス発展の鍵ですが、製造業にその要素を取り入れた事例です。

“モノ”から“コト”への転換

製造業のサービス化を語る時、「モノからコトへ」というキーワードが使われます。先ほど挙げた食品のレシピ共有やSNSでのフォトコンテストのように、最適な活用方法の提案をおこなうビジネススタイルを指した言葉です。また、IoTの技術を用い、モニタリングのデータを活用して利用者の健康増進をサポートするといったビジネスモデルもあります。海外のマットレスには、その時の体調で硬さや温度を調節するものもあります。これらは製品単体より、付随するサービスがアピールポイントだといえます。

サービスソリューション事業化

マーケティング論の大家であるセオドア・レビット博士の教えに「ドリルを買う顧客が欲しいのは、ドリルではなく穴である」という名文句がある。顧客はモノに価値があるからそれを買うのではない。モノを消費し使用することによって価値が生まれるのだ。
日本経済新聞

モノからコトとは、上記のような「ソリューション事業化」も意味します。製造業に新興国家も容易に参入できるようになり、モノ余りの時代を迎えた製造業界は競争を激化させました。そこにIoT技術など最先端技術が登場すると、製造業は新たな傾向に向かいました。

サービス化が求められる時代背景

サービス化が求められる時代背景

新興国企業の製造業参入による製品の供給過剰で競争が激化した背景もあり、モノとサービスを組み合わせて提供する製造業が増加しました。その後、「第4次産業革命」の一環であるIoTなど最先端技術の登場は、製造業のサービス化に更なる拍車をかけました。モノのインターネット(IoT)は、これまで実現不可能だったビジネスモデルをどんどん誕生させていきました。いまやモノに組み合わせたサービスで、いかに顧客の課題のソリューションを図るかという段階に来ています。

製品のコモディティ化、競合との差別化に苦しむ構造

製造業は、もともと「製品のコモディティ化」が進みやすいという問題がありました。コモディティ化とは、「一般的になる」という意味です。これは、家電製品などに顕著に見られる傾向で、例えば薄型テレビなどの家電はコモディティ化がしやすいといわれています。差別化の戦いが激しく、1シーズン前の商品はすぐに「型落ち品」として値下がりしてしまいます。このような困難な構造が、もともと製造業には存在しました。

シェアリングエコノミーなど、モノの所有から利用へ

シェアリングエコノミーなど、モノの所有から利用へ
出典:総務省「ICTによるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究」

上図は、総務省調べの「シェアリングエコノミーの5類型」です。「所有から利用へ」とうたわれるシェアリングエコノミーでは、モノのみならずスキルやお金まで共有できます。モノが与える価値は、それを「所有」することではなく、使用することでいかなる「体験」や「解決」が得られるかにシフトしたといえます。

製造業のサービス化に不可欠なICT

ICTとは、Information and Communication Technologyの略です。何と、海外ではITのことをICTと呼ぶのが一般的だそうで、IoTもICTの範疇に入ってしまう言葉になります。日本でも、いくつかの省庁は既にITからICTの使用にシフトしていますが、情報は取得するだけでなく共有することで意味を持つことを考えれば、当然の動きでしょう。今後の製造業には「C」のCommunication的要素が付加されると考えられ、Communicationは消費者を満足させる体験やソリューション提供のためには不可欠な要素になるでしょう。

今後の製造業の在り方とは?

今後の製造業の在り方とは?

製造業のサービス化が進むと、製造業の在り方はどのように変わってくるのでしょうか。消費者の視点が、製品そのものの価値よりも、そこから展開されるサービスの内容に向いていくといえます。そうであるなら、製品に搭載されるICT技術に関する深い知識を持たなければ、商品開発自体が不確かなものになってしまいます。また、製品の販売後に集積されたデータの扱い方に関しても同様です。データを有効活用できる知識や体制を、整備することが急がれます。

サポートするのは製品ではなく顧客

これまでの製造業は製品単体のサポートをおこなってきましたが、これからは顧客のサポートに重心が移ります。顧客のサポートとは、顧客が一般消費者対象なら顧客の生活の向上のため、法人・事業主が対象なら生産性や利益の向上を目指します。将来、業務オペレーションを最適化したり、コンサルティングをおこなう機能が求められるようになり、累積したデータを有効活用してAIが生産工程を最適化する、といったことが一般化する時が来るでしょう。

アフターマーケット情報を活用

製造業といえば、従来はずっと売り切りスタイルでやってきました。価格を下げたりおまけをしたりして上手く売ってしまえば、その後のケアは製品のアフターケアのみでした。しかし今後は、販売後の「アフターマーケット情報」に価値があります。例えば、アフターマーケット情報から、開発通りに上手く製品が動作しているか分かります。また吸い上げた情報から新たな顧客のニーズを掴んだり、商品開発に結びついたりするメリットもあります。

スマートファクトリーで多品種少量生産が可能に

「考える工場」と訳されるスマートファクトリーは、人手では考えられないような緻密で正確な製造をおこなうことができます。その性能を活用して「マス・カスタマイゼーション」が可能になると考えられています。つまり、多品種少量生産がローコストで可能になります。カスタマイズに必要な顧客情報を、家にいる顧客にセンサーを装着してもらって収集し、それによって生産工程を組みカスタム製品を自動制御で生産する。こんな夢のようなことも可能になるというのです。

まとめ

いま製造業が直面しているのは、新しい技術に立脚したサービスの価値観の転換と、その技術に対する知識の習得の必要性です。製造業界自体も世代交代の時期を迎え、新しい世代に基盤が引き継がれようとしていますが、それはちょうど「製造業のサービス化」と時を同じくしているといえるでしょう。新しい人材の確保という視点からもしっかりと対峙すべき内容であり、結果的に、息が長い経営を可能にするものであると思われます。