運送業における課題の特殊性と働き方改革に向けた現在の動向をご紹介

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「働き方改革」は、日本の将来的な労働力の減少を見越して、効率的な働き方の実現を目指しています。そのために、長時間労働という悪しき慣習が改められようとしています。運送業においても働き方改革は必要です。それどころか、運送業界は最も改善を渇求する業界といえるでしょう。
この記事では運送業を取り巻く課題と、働き方改革に向けた現在の動向を紹介していきます。

トラック運送業界を取り巻く課題

トラック業界の労働環境は、まさに「働き方改革」を必要としています。トラックドライバーの就労状況は、過酷な競争や劣悪な待遇による人手不足が原因でますます劣悪なものになっています。運送・運輸業のブラック化した就労状況が事故を引き起こし、業界全体の体質改善が急務であると幾度となく報道されてきましたが、なかなか改善は見られません。このままではドライバーのなり手が現れなくなり、より深刻な人手不足に陥ることが懸念されています。

トラックドライバーの長時間労働、低賃金

トラックドライバーは、全産業の平均と比較して長時間労働、低賃金で、「2 割長く 2 割安い」職業だと揶揄されるほどです。
公益社団法人全日本トラック協会は平成30年3月「トラック運送業界の働き方改革実現に向けたアクションプラン」をまとめました。トラックドライバーの低賃金についての言及を引用します。

トラックドライバーの年間賃金額は大型トラックで 447 万円、中小型トラックで 399万円となっており、全産業平均(490 万円)と比べて 1 ~ 2 割も低い。
「トラック運送業界の働き方改革実現に向けたアクションプラン」

厳しい人手不足(貨物自動車運転手の有効求人倍率: 2.84 倍)

厚生労働省の調査によれば、貨物自動車運転手の有効求人倍率は 「2.84 倍」に達しており、厳しい人手不足に陥っています。道路貨物運送業への年齢階級別就業者構成比をみると、下記のように若い就業者が激減しています。

平成 18 年:10 代と 20代の就業者が 14.5 %
平成 28 年:9.0 %

若年層の新規雇用の減少と、今後の定年退職者の大量発生で、人手不足は更に深刻なものになると考えられます。大型運転者(男性)の平均年齢は 47 歳を超え、ドライバーの高齢化も問題視されています。

行き過ぎた競争

トラック運送業界では、原価割れの運賃・料金を提示することで荷主を奪いあうといった、行き過ぎた競争がおこなわれてきました。同業界では、輸送効率の低下の進行とともに、物流二法での規制緩和と貨物量の減少によって競争が激化した背景があります。競争力を持つために、運賃値下げや荷主主導の物流条件の受け入れなどが横行し、そうしなければが生き残れない状態になりました。結果、低運賃や荷主都合の荷待ち時間の長時間化などが常態化してしまいます。

運送業の異例性


働き方改革によって何が推進されるのでしょうか。「同一労働同一賃金関連法案」「女性活躍推進法」などがありますが、最も重要視されているのが「労働基準法の改正」で、そのなかでも長時間労働の是正です。改正労働基準法の施行は2019年4月1日からです。時間外労働は月45時間、年360時間までという上限が設けられ、「36協定」による例外措置に関しては最大月100時間未満まで、年720時間までが上限となりました。
しかし運送業は、改正労働基準法に対して独自のアクションプランで取り組みます。その理由は、時間外労働が月100時間を超える労働者が少なくない運送業の労働環境改善は、その特殊性を考慮され、時間がかかると判断されたからです。

長時間労働2434か所(55.6%)

厚生労働省は2017年8月9日、2016年に実施した労働関係の調査結果を発表しました。それによると、調査に応じた4381か所の全事業所の82.9%を占める3632か所において、法令違反があったことが明らかになりました。
違反内容を見てみましょう。最も多かったのは「長時間労働」が2434か所で、全体の半数以上の55.6%にもなりました。次いで「残業代などの割増賃金の未払い」が956か所で全体の21.8%、「休日関連」が218か所で5%と続きました。

その内訳はトラックが83.3%

業種別に見ていくと、トラックやバスなどの運送業者の法令違反が最多でした。全体の8割超えに、労働関係の法令違反がみられたことが分かっています。法令違反が見られた事業者数の業種別内訳ですが、トラックが2585件で83.3%、バスが386件で79.3%、ハイヤー・タクシーが351件で86.7%という結果でした。その他は310件で80.7%でした。厚生労働省は、重大な法令違反があった68件を送検したと発表。また、100時間超えの時間外労働をおこなっているドライバーがいたトラック会社や、深夜残業従事の従業員が健康診断を受診していなかった貸切バス会社などに対しては、是正勧告をおこないました。

改善基準告示違反も62.7%がトラック

そのほかにも「改善基準告示違反」が見られました。「改善基準告示」とは、労働基準関連法の他にバス、トラック、タクシーなどの運転者に対して策定されたもので、「16時間を限度とする最大拘束時間」や「原則8時間以上の休息時間」などが含まれます。これについても違反率が高く、2699か所の営業所(61.6%)で違反行為がみられました。特に、こちらもトラックを使用する業種において違反率が高く、3105か所中2088か所、62.7%の事業所が違反していたことが分かりました。

運送業における働き方改革 事例


これまで、運送業界に従事する労働者のおかれた厳しい労働環境についてまとめてきました。とりわけトラックドライバーの就労環境は劣悪で、長時間労働や低賃金が常態化しています。人手不足は全業界に共通する問題ですが、運送・運輸業界も例外ではなく「貨物自動車運転手の有効求人倍率が2.84 倍」という厳しい状態にあります。運送業を将来支える若い人材を確保するためにも、状況の改善が急がれます。政府はブラック化した運送業界の根の深さを鑑み、新労働規制の適用に5年の猶予を与えました。

平成29年3月「働き方改革実行計画(アクションプラン)」施行

政府は、全10回の議論の末、2017年3月28日に「働き方改革実行計画(アクションプラン)」を決定しました。
働き方改革実行計画はなぜ必要になったのでしょうか。その背景には、先進国のなかでも低いといわれる日本の労働生産性があります。将来、少子高齢化に伴い日本の労働生産性が減退の一途をたどるのを阻止するため、日本の労働者が抱える様々な課題を解決すべく策定されました。以下の問題の解決を主眼としています。

  • 賃金などの処遇の改善
  • 時間・場所などの制約の克服
  • キャリアの構築

5年後には時間外労働を年960 時間以内に

全日本トラック協会は、2018年3月30日に「トラック運送業界の働き方改革実現に向けたアクションプラン」を制定しました。それによると、「働き方改革実行計画(アクションプラン)」が施行される2019年の5年後である 2024年度までに「時間外労働が960時間以上のトラック運転手が発生する事業者を、ゼロにすること」が達成目標となりました。2024度年には、罰則付き時間外労働規制の適用が開始されます。5年間の猶予は、前述したようにトラック業界の特殊性を鑑みての措置です。

アクションプラン4つの指針とは

「トラック運送業界の働き方改革実現に向けたアクションプラン」には、4つの指針が盛り込まれています。

労働生産性の向上

時間外労働を減らすために、業務効率化と労働生産性向上を目指します。具体的には、アシスト機器の活用、荷待ち時間・荷役時間の削減、高速道路の有効活動、駐車対策の見直しや、物流に配慮したインフラ整備、中継輸送の拡大予定などです。

運送事業者の経営改善

ドライバーの待遇改善です。具体的には賃金向上、週休2日制の導入、原価計算や運賃、料金設定の見直し、走行時間や速度を可視化するデジタコの購入費補助などです。

適正取引の推進

運輸料金・運賃設定の規制緩和以降、競争激化により適正とはいえない条件での取引が横行してきました。適正な取引を推進します。

多様な人材の確保・育成

深刻なドライバー不足の解決です。人材確保のためにも、若者に魅力的な雇用条件にしていくことと充実した教育制度が必要です。

まとめ

運送業の長時間労働やドライバーの待遇の悪さは、規制緩和による競争の激化など業界全体の動向からシワ寄せが来たものだといえます。
運送業界はいま、罰則付き時間外労働規制の適用などがはじまる2024年度に向かって、体質改善を強いられている状態です。アクションプランが功を奏し、若い人材が働きたいと集う魅力ある業界に生まれ変わることを願います。